網膜剥離
網膜剥離とは
網膜剥離とは、眼球の内側の網膜が剥がれてしまう疾患です。網膜が剥がれると、視力低下や飛蚊症、視野の一部が欠けて物が見えにくくなってしまいます。
網膜の中の網膜色素上皮細胞と神経網膜の接着は弱いので、目の打撲や加齢、糖尿病など、何らかの原因で神経網膜がはがれて、硝子体の中に浮き上がってしまうことがあります。これが網膜剥離です。網膜剥離は裂孔原性網膜剥離と呼ばれる網膜に裂孔(裂け目)を伴うものが一般的です。
剥がれてしまった網膜が自然に治ることはありません。放置すると失明する恐れもある怖い病気です。違和感を感じたら、すぐにかかりつけの眼科にご相談ください。
網膜裂孔
裂孔原性網膜剥離
網膜剥離の原因
網膜剥離は生まれつきのものと後天的に現れるものがあります。網膜剥離の大半は後天的なものですが、ぶどう膜炎が原因で起こるものや、硝子体液が流れ出ることが原因で起こる突発性網膜剥離があります。
加齢
網膜剥離で一番多いのが、加齢が原因で起こるものです。網膜に包まれた中には硝子体という組織があります。硝子体は透明の寒天状の物質で満たされた組織ですが、加齢と共にこの寒天が液状化していきます。硝子体が液体になることで水分が少しずつ減り、容積が減少していくことで、網膜とくっついていた硝子体の後ろ側の膜が網膜からはがれていきます。これを後部硝子体剥離といいます。硝子体剥離は生理的なもので、加齢によって誰にも起こり得ます。
しかし、硝子体と網膜がしっかりくっついていて、さらに網膜が弱くなっていると、硝子体が剥がれた時に網膜が引っ張られて孔や裂け目が生じます。これが網膜裂孔です。この裂けた網膜から、硝子体が網膜の下に入り込むと網膜剥離へと進行していきます。
近視
近視が強い人は硝子体の液化が早いため、比較的若い年齢で網膜剥離を発症します。
また、近視が強くなっていくと、眼球そのものに変化が生じます。近視が強くなるほど、目の奥行(眼軸)が前後に伸びていくため、目の壁を構成する層(網膜、脈絡膜、強膜)が薄くなっていきます。その結果、網膜円孔と呼ばれる孔があきやすくなり、網膜剥離へと進んでいきます。
さらに強度近視の目に起きる特殊な網膜剥離もありますので、近視が強くならないように対処が必要です。
アトピー性皮膚炎
近年、若年層の網膜剥離の原因として増えている疾患です。網膜剥離はアトピー性皮膚炎の重症な合併症としてあげられます。
アトピー性皮膚炎には結膜や瞼、目の周囲などにあらがえない程の強いかゆみを感じます。このことから、強いかゆみをどうにかしようと目を激しく強くこすったり、ひっかいたり、叩いてしまったりします。
こういった物理的な刺激によって、網膜に孔があき、網膜剥離につながる恐れがあります。
糖尿病
網膜には細かい無数の血管が張り巡らされています。その毛細血管が、血糖が高い状態が長く続くと損傷を受けたり、閉塞することで網膜が酸欠状態になります。
網膜は酸素不足を補うために、網膜から硝子体に向かって新生血管を生やしていきます。新生血管は脆く、容易に出血します。出血することで新生血管の周囲に線維の膜ができ、それが網膜を引っ張ることで網膜剥離を起こします。
ぶとう膜炎
ぶどう膜のうち、脈絡膜は網膜と強膜の間にある膜状の組織です。眼球内部の広い範囲を覆っており、眼球の他の部分に比べて血管が多いのが特徴です。そのため、血液の流れに関係して、全身の他の臓器に起こった炎症に影響されて炎症が起きやすい場所です。
ぶどう膜は網膜とほぼ全面で接しているため、炎症が起こると網膜に強く影響を及ぼし、網膜剥離や黄斑浮腫、白内障や緑内障が生じる可能性もあります。
外部からの衝撃
糖尿病や加齢、近視などの理由で網膜に薄い部分ができていることがあります。
この場合、自動車事故やスポーツにより、目や頭に衝撃を受けると眼球が急激に変化して、網膜の弱い部分に網膜裂孔が生じることがあります。
網膜剥離の前兆
急に飛蚊症の症状が現れたり、視界の一部がキラキラ光っているように感じることが、網膜剥離の前兆として特徴的な症状です。
以下のような症状がある方は、一度ご来院の上ご相談ください。
このような症状は
ありませんか?
- 目の前に小さな虫や黒い影が見える(飛蚊症)
- 視界の一部が光って見える(光視症)
- 見える範囲が狭くなっていないか、かけていないか
- 視力の低下を感じないか
網膜剥離の重症例
術前
術後
網膜の中心部まで剥がれている網膜剥離の写真です。術前の写真には、視神経(左側の白い丸い部分)近くまで網膜がビロード状に襞(ひだ)になって浮いている状態です。硝子体切除術を施行し、網膜中心部の剥離は治り、術前に落ちてしまった視力も戻っています。中心部まで網膜剥離が進行すると、視力低下や視野欠損を認める場合があります。早期に治療することが重要です。
網膜剥離の治療
網膜円孔の場合
光凝固法
網膜にできた裂け目を塞ぐ処置には「光凝固法」をおこないます。瞳孔から網膜の孔にレーザーを照射し、焼き付けることで、裂け目の周囲の網膜とその下の組織がくっつき、網膜が剥がれにくくなります。
症例
網膜裂孔
網膜剥離
網膜の端の方に、網膜裂孔(写真上方の赤い部分)を原因として、そこから網膜下に眼内の水分がまわりこみ、網膜が浮き上がってきています。これは、剥離している網膜の端の部分に、レーザー光凝固術を施行し、網膜剥離の進行を食い止めています。
網膜裂孔の場合
硝子体手術
硝子体手術は網膜裂孔を起こしている硝子体を切除する手術です。眼科治療の中では最も高度な手術治療のひとつとなります。
網膜を引っ張っている硝子体を丹念に切除し、網膜下に入ってしまった水を吸引します。その後は、網膜と脈絡膜の接着を強めるために「光凝固法」をおこないます。最後に眼内に特殊なガスを入れ、切開した部分を閉じて手術は終了です。
術後は少なくとも1~2日の間、トイレと食事以外はうつむきや横向きなどの体位保持によって、網膜を接着させます。術後、1か月程度は網膜再剥離になる危険性が高いので、安静にお過ごしください。
強膜バックリング術
(網膜復位術、強膜内陥術)
外側からシリコンスポンジを縫着させることで眼球をへこませて、内側に剥がれた網膜の孔と眼球の壁を近づけて癒着させる手術です。裂孔の場所によっては行えませんが、眼内をほぼ触らないため、水晶体を温存できたり、合併症のリスクが比較的少ない手術です。
網膜を引っ張る硝子体が強く、網膜が復位しない場合は、追加で硝子体手術をおこなう場合もあります。